Long Hug Town #2

水島貴大 / Mizushima Takahiro

Long Hug Town #2

2016.11.29 (tue) – 12.11 (sun)

Open 12:00 – 19:00 Closed Mondays

小学生の頃、近所の池の周りを泣きながら歩くおばさんがいました。
下校の時間になるとたびたび現れるそのおばさんは、いつも蒼白い頰に涙を伝わせながら歩いているのです。「旦那さんが事故でなくなった、いや、子供が事故でなくなった、いや、さてはこの世のものではない。」私たちに言えるだけの憶測をかわしながら、たびたび現れるそのおばさんについて、幼いなりに理解しようと試みていました。
「話しかけてみようよ。」あのときそう言ったのは自分ではなかったと思うし、それを実行したのも自分ではありませんでした。わたしは物陰で中身の詰まったランドセルを押し合いながら好奇心だけでそこにいる、臆病でつまらない子供でした。
じんわりと掻いた汗で思い起こせるのはそのときが夏だったということで。坂の多いこの町の高所から見える雲がうねりのように襲いかかってくるようだったこと、そしてそれはやはり夏だったということです。
あの日、「なんで泣いているんですか?」と声をかけた少年の背中に、鼓動が胸をつきやぶるような気付きがあって、そうして一瞬時間が止まったような記憶の中で、ひょっとしたらおばさんに声をかけた少年は自分だったのかもしれないと錯覚するようになりました。
町の暑いうねりの中で、ひとけのない一本道に二人たたずんでいたのは、屈託のない私と泣いてるおばさんだったらいいのになあと。そんなことを考えながら日々を過ごしていました。というのも、このあいだその人を見かけたような気がして、でも泣いてなくて、たたずんでるわけでもなくて、ただ歩いていて、前を向いて。

水島貴大