奥山淳志 / Okuyama Atsushi
Drawing 明日をつくる人 vol.2
2010.10.5 (tue) – 10.10(sun)
Open 12:00 – 19:00
北海道に暮らす弁造さんの家の中心には、イーゼルが立っている。その前で発砲スチロールの箱に座り、絵を描くのが、今の弁造さんの大切な時間だ。絵は弁造さんにとって大きな夢だった。夏は荒野を開墾して金を貯め、冬は上京して画学校で絵を学ぶ。
若い頃はそんな暮らしを何年も続けた。
「絵のための人生」。弁造さんは青年期の自らについてそう語った。しかし、現実として、その「人生」を描き切ることはできなかった。絵をやめる理由は、きっといくつもあるだろうが、弁造さんが絵をやめた理由は、“ 人生の出来事” に対し、自らの意地や信念を貫くためだった。それはきっと、「誰の人生でも起こりうること出来事にすぎない」と人は言うだろう。僕もそう思うようにしている。それでも、弁造さんを訪ね、その描く姿にシャッターを切るたびに、胸が震えるような、溢れるような思いにとらわれる。病気が原因で震える指先も、キャンバスに向かう際の少し呆けたような表情も見慣れたはずであるけれど、いつも何かが溢れて、止まらない。「残りの人生で、描けるのはあと数枚」と笑う弁造さんが、今、描いているのは母と娘だ。91歳になる弁造さんにとって、それが何を意味するのか、僕にはわからない。
「何かを得て、何かを失う」と、以前、弁造さんはメモに書き記していた。
絵も言葉も、簡単にわかったような気持ちにだけはならないように気を付けている。
1972年、大阪生まれ。
京都外国語大学卒業。1995~1998年、東京で出版社に勤務した後、1998 年、岩手県雫石に移住し、
写真家として活動を開始。以後雑誌媒体を中心に北東北の風土や文化を発表するほか、近年は、積極的に作品発表を行っている。
[作品展]
2009年「今、そこにある旅(東京写真月間)」コニカミノルタフォトギャラリー(東京)、
2008年「明日を作る人」新宿ニコンサロン(東京)、2006年「Country Songs ここで生きている」
ガーディアンガーデン(東京)・ギャラリーヒラキン(岩手)、2005年「旅するクロイヌ」up cafe( 岩手)